小説の背景描写を磨く|読者を引き込む3つの技法

検証ラボ
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小説の背景描写は、単なる「風景説明」ではない。

それは登場人物の感情を映し出し、物語の温度を調整する“空気そのもの”である。

たとえば、雨の降る道を描くとき、作者が伝えたいのは雨の性質ではなく、「その雨の中に立つ人物の心の湿り気」だと言える。

背景とは、感情の鏡であり、物語の呼吸を整える装置。うまく描かれた背景は、読者の無意識に語りかけ、場面を“体験”へと変えてくれる。

今回は、小説における背景描写の基本構造をまとめ、例文を用いて考えていく。

背景描写を整える3つの機能

背景描写には、大きく3つの機能がある。


  • 状況説明
    時間・場所・季節など、読者が物語の現在地を理解するための最低限の情報。
  • 感情描写
    登場人物の心情や物語のトーンを背景に投影する手法で、心理描写と並ぶ重要要素。
  • 象徴化
    背景そのものがテーマを示唆する層。たとえば、崩れかけた家は「家族の崩壊」を、春の風は「再生」や「希望」を象徴として描く。

背景描写が弱い小説は、読者の心に温度差が生まれやすく、人物と出来事が浮いてしまう。逆に、背景がしっかり息づいている作品は、読者が自然に“場”の中で登場人物と呼吸できる。

重要なのは、背景を「描く」より「感じさせる」こと。

すべてを説明せず、五感を通して匂いや光、風の動きを差し込むと、文章に深みと余白が生まれる。背景描写とは、作者が読者の感情を導くための“静かなナビゲーション”なのである。

なお、感情描写は以下の記事で詳しく解説している。ぜひ体験してみてはいかがだろうか。

背景描写の例文を作ってみよう!

本項では、背景描写の3つの機能について検証していく。まず、以下の文章を見ていただきたい。

テーマ:勇気が大切だ。
主人公:小学5年生の男子(祐樹)
状況:運動会

例文⓪:あらすじを書いてみる
祐樹は運動が得意ではない。それでもリレーのアンカーをまっとうする決意をした。

以下では実際に例文を作ってみたいと思う。

状況説明を加えてみよう

まず、例文⓪に①状況説明を加えてみよう。

例文①:状況説明を加えてみる
 運動会の終盤、祐樹は急遽、リレーのアンカーをまかされることになった。しかし彼は運動が得意ではない。それでも、まっとうする決意をした。

例文①では、例文⓪に『運動会の終盤』という文言を追加した。これにより祐樹が置かれている状況が鮮明になった。
しかしながら、例文①は簡素である。それは祐樹が何を考えているかが見えないからに他ならない。

感情描写を加えてみよう

次に、例文①に②感情描写を追加してみよう。

例文②:感情描写を入れてみる
 運動会の終盤、祐樹は急遽、リレーのアンカーをまかされることになった。しかし彼は運動が得意ではない。
――それでも……。それでも僕はみんなのために。
 祐樹はそう思って、アンカーをまっとうする決意をした。

例文②は、例文①にモノローグを加えてみた。すると祐樹がどう思ってアンカーを引き受けたかが少しだけ垣間見える。

象徴化を加えてみよう

最後に、③象徴化を加えてみよう。

例文③:象徴化を加えてみる
 運動会の終盤、祐樹は急遽、リレーのアンカーをまかされることになった。しかし彼は運動が得意ではない。それでもクラスメートの熱い視線を感じる。
――みんなのために。僕の全力を……。
 すると雲隠れしていた太陽も微笑みを見せる。祐樹はそれらすべてから力をもらって、アンカーをまっとうする決意をした。

例文③では、状況説明と感情描写にテーマを入れ込み、太陽を『勇気』の象徴化として使った。すると、祐樹の思い(モノローグ)が変わり、このあとどのようなリレーになるかが楽しみになったのではないだろうか。

このように、背景は出来事の羅列ではなく、状況・感情・象徴化が大切だと言えるだろう。

なお、モノローグに関して、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ体験していただきたい。

まとめ

今回は、小説における背景描写として以下の3点を紹介した。


  • 状況説明
  • 感情描写
  • 象徴化

上記をベースストーリーに追加することで、魅力的な物語へと昇華できるだろう。

皆さんも、上記を踏まえて、物語を体験してみてはいかがだろうか?
きっと、今までと違った見え方がするかもしれない。

以上

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