小説におけるモノローグとは?例文で見る内面を“語らずに語る”技法

検証ラボ
この記事は約5分で読めます。

小説の中で「心の声」をどう描くか──これは、書き手にとって避けられない問いの一つかもしれない。その中で、モノローグ(独白)は登場人物の内面に深く迫るための技法であり、物語の感情温度を調整する装置として知られている。

一方、この「語り」はともすれば説明的になり、読者を冷めさせてしまう危うさもはらんでいるのは否めない。
本記事では小説におけるモノローグを学ぶため、その分類と記号を整理しつつ、例文を使って検証していく。

モノローグの分類と記号

モノローグとは、登場人物の心の声や内面をそのまま文章化した独白表現のことである。また、地の文と一体化することも多く、小説における“思考の演技”を支える重要な技法のひとつに数えられる。

以下では、モノローグの分類と、よく使用される記号に分けて記載する。

モノローグの分類

モノローグには、大きく分けて次の3つの使い方がある。


  • 状況説明の補助:セリフでは表現しにくい“本人しか知らない情報”を伝える
  • 感情の深掘り:怒り、迷い、喜びといった感情の推移を段階的に見せる
  • 読者への橋渡し:読者の視点と登場人物の思考を同期させ、物語への没入を深める

ただし、モノローグは扱いを誤ると「説明くさい」「作者の語りに見える」「テンポが崩れる」といったリスクもある。
そのため、大切なのは“何を語るか”よりも、“なぜ今、その心情が語られるのか”という構造だと考えられる。

また、内面を全て言語化するのではなく、「語らない部分」を残すことで読者の想像力を引き出す設計も効果的とも言える。
つまり、モノローグは“開示”ではなく“含意”として設計すると、より文学的な深度を生み出す要素となり得る。

モノローグにおける記号の使い分け

モノローグ表現では、「――」「……」「()」などの記号がしばしば用いられる。


  • 「――」:思考の強調や反発、断定的な独白に用いられる。
     感情があふれ出る瞬間や、意識の断絶を表現する際に有効。
     例:「――なんで、俺が謝るんだよ」
  • 「()」:抑制された声や意識の片隅にある感情を示す。
     話し手が無意識に言葉を抑え込んでいたり、意図的に“語らずに置く”ような感情表現に使われたりする。
     例:平気なふりをしていた。(ほんとは、ずっと怖かった)
  • 「……」:戸惑い、感情の余韻、思考のゆらぎを表す。
     明言を避けたい心情や、語りかけるような内面に適する。
     例:「……やっぱり、やめておこうかな」

つまりは、同じ内面でも、使う記号ひとつで心理のテンポや温度、さらには“語りの位置”が変わる。特に地の文と接続されたモノローグでは、単なる記号ではなく、“どの層の感情が語られているか”を読者に示す視覚的な手がかりになり得るだろう。

このように、モノローグ記号もまた、語りの構造をデザインする「声の設計図」の一部と言えるのである。

例文で見てみよう①:モノローグの分類

前項では、モノローグを状況説明の補助、感情の深掘り、読者への橋渡しと分類した。そこで、以下の例文を見ていただきたい。

【例文①】
 太郎が先輩と呑んでいると、酔っぱらった先輩が話し始めた。
「お前ももっと気合いを入れんとな」
 ――それは一昨日も聞いた。とは言わずに太郎は相槌を打つ。
「俺は昔から仕事一筋でな。残業なんかは当たり前で」
(この話、大して面白くもないんだよな)
 太郎は笑顔の裏でそう思う。しかし、先輩の話はまだまだ続く。
「俺の若い頃は ~(中略)~ だった」
 ……もう、いいかな?
 そこで、太郎は手を上げて、大きめな声で店員を呼ぶのだった。

上記では、太郎のモノローグの中に、『一昨日も聞いた』=状況説明、『面白くもない』=感情の深掘り、『もう、いいかな?』=読者への橋渡しを描いている。
特に例文では省いたが、(中略)の部分が長いと、太郎と読者の意見が一致するのではないだろうか、と予想される。(……その場合、面白くない話になるのはご愛嬌)

このように、モノローグを使うと太郎の内面を通して、関係性や過去の出来事、ひいては読者の気持ちの代弁などにも使えるとわかるのではないだろうか。

例文で見てみよう②:モノローグの記号

さて、例文①ではすでに「分類」と「記号の違い」が織り込まれていた。ここからは、それぞれの特徴がどう表れていたかを具体的に見ていきたい。

まずは「――」。『それは一昨日も聞いた』というモノローグにこの記号を使うと、太郎が何度も同じ話を聞いている状況が強調されているとわかる。
また、『(対して面白くもない)』では先輩には言いにくい本心を表す、いわゆる内面に沈んだ“響き”に見える。
さらに『……もう、いいかな?』の部分では感情の揺れ、つまり太郎が先輩の話を遮るタイミングを見計らっている様子がわかるかもしれない。

このように、登場人物の感情にそってモノローグ記号を使い分けると、より鮮明にシーンや感情を表現できると考えられる。

おわりに

今回は、小説におけるモノローグの分類と記号についてまとめ、例文を使って検証した。モノローグには以下のように機能で分類され、感情によって記号を使い分けるとわかった。

モノローグ機能の分類モノローグ記号の分類
・状況説明の補助
・感情の深掘り
・読者への橋渡し
・「――」:強調された“声”
・「()」:内面に沈んだ“響き”
・「……」:感情が揺れている“間”

筆者は、上記を意識すると登場人物の内面の他、シーンや関係性までも物語に映し出すことができると考えている。

皆さんも、モノローグを使ってさまざまな物語を書いてみてはいかがだろうか?
すると、深く、味わいのある作品になるのではないかと期待して、本文を締め括る。

以上

タイトルとURLをコピーしました