小説における感情表現の比喩──直喩と隠喩で心を描く方法

検証ラボ
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小説における感情表現は、単に「嬉しい」「悲しい」と言葉にするだけでは十分に伝わらない。そのため、比喩を使った表現が大きな役割を果たすかもしれない。
比喩には、直喩(「〜のように」などを用いた直接的な言い換え)と、隠喩(状況やイメージを描写する置き換え)がある。
本記事では、直喩と隠喩それぞれの特徴を整理し、例文を用いて検証していく。

直喩(Simile)

直喩は「〜のように」「まるで〜のようだ」といった形式で、感情を他のものに直接的に例える方法である。そのため、わかりやすく即座に情景が伝わりやすくなり、感情の鮮やかさを強調したい場面にも効果的だと言える。
以下では、代表的な感情における直喩の例を挙げておく。

種類表現例
喜び・花が咲くように笑う
・光のように輝く
・翼を得たように舞い上がる
・春のように温かい
・太陽のように明るい
怒り・顔が真っ赤になるように怒る
・火山のように噴き出す
・雷のように怒鳴る
・血が逆流するように腹立つ
・炎のように燃える
悲しみ(哀しみ)・心が凍るように悲しい
・雨のように涙が流れる
・胸が締め付けられるようだ
・影のように沈む
・闇のように深い悲しみ
楽しみ・子どものようにはしゃぐ
・羽が生えたように軽い気持ちになる
・祭りのようににぎやかだ
・時間を忘れるほど夢中になる
・宝物を見つけたように笑顔がこぼれる
驚き・雷に打たれたように驚く
・凍りつくように息をのむ
・石のように固まる
・目を丸くする
・心臓が飛び出すようだ
恐怖・血の気が引くように恐れる
・闇の中に放り込まれたように怯える
・氷のように冷たくなる
・背筋が凍るように恐ろしい
・地面が崩れるように不安になる
愛情・太陽のように包み込む愛
・水のように自然に寄り添う
・灯火のように支える
・海のように深い愛
・大地のように揺るがない

上記のように感情表現における直喩は、視覚的に伝わりやすい表現になっていることがわかる。そのため、筆者にとって扱いやすく、読者にとってもわかりやすいことこそが直喩の特徴だと言えるだろう。

隠喩(Metaphor)

隠喩は「〜のように」を用いず、直接的に別の対象や状況に置き換える表現である。そのため直喩よりも抽象的で余韻があり、読者の想像力に委ねる気持ちが必要とも言えるだろう。以下では、感情表現の隠喩の分類を例文をまじえて考えていく。

自然現象の隠喩

自然現象の隠喩は、文字通り天気や植物などを用いて感情を表現する方法である。以下では、『喜び』と『怒り』を自然現象を用いて表現していく。

【例文①:喜びの表現】
 今日は入学式。一郎が正門から校舎に向かう最中、満開の桜が出迎えてくれた。

上記では、入学の喜びを満開の桜によって表現していることが分かる。では、続いて怒りを表現してみると、どうなるだろうか?

【例文②:怒りの表現】
 校舎の裏では、次郎が三郎を待っていた。しかし彼はいまだに姿を現さない。次郎の足踏みがやがて砂嵐となり、校舎の壁に撃ち付けられていた。

上記では次郎の苛立ち(怒り)を砂嵐として表現し、壁に撃ち付けることで怒りの度合いを示していることがわかるのではないだろうか。

物質・状態の隠喩

物質・状態――いわゆるモノや動物、あるいは空間の雰囲気を用いて感情を表現することもできる。以下は、『悲しみ』と『楽しさ』を物質・状態を用いて描いていく。

【例文③:悲しみ(哀しみ)の表現】
 三郎は涙を流していた。入学式のその日にペットの小鳥が旅立ったのだ。この日を楽しみにしていたはずなのに、心はずっと凍ったままだ。

上記は、悲しみを温度で表現し、三郎の胸中を描いている。すると、『悲しい』と書くよりも、より深い感情を描けていると言えるかもしれない。

【例文④:楽しさの表現】
 教室の空気は弾んでいた。笑い声に押され、机の上の鉛筆までもが小刻みに揺れている。一郎は新たな生活に胸が高鳴っていた。

この例文では、一郎の胸中を空間(教室)や鉛筆の描写などで表している。つまりは一郎がどのように物事を見て、どのように感じているかにフォーカスしていると分かるかもしれない。

光や闇の隠喩

光と闇は希望や恐怖といった感情と親和性が高い。以下では、『驚き』の感情を光と闇を用いて研究し、『恐怖』についても掘り下げていく。

【例文⑤:驚きの表現】
 一郎は窓から下を見た。すると黒い閃光が目に飛び込んできて、思わず声をあげそうになる。下に見えるのは二人、灯りと闇のコントラストのように映っていた。

上記では、黒い閃光によって不穏さと驚きを同時に表現している。つまりは光の表現にアクセントを加えることで、何に驚いたかも描けると言えるかもしれない。

【例文⑥:恐怖の表現】
 次郎が目にしたのは、闇に満ちた三郎の姿であった。瞳は冷たく、頬にも光が当たらない。次郎は足踏みを震えに変えて、動くことすらできなかった。

この文章では、三郎の気持ちを闇や光が当たらないと表現することで、次郎の恐怖を誘発している。さらに次郎の動作(震え、動けない)などにより強化されていると考えられる。

空間・時間の隠喩

空間と時間はいろいろな場面で用いることができると考えられる。そこで、以下では『愛情』表現を取り上げていく。

【例文⑦:愛情の表現】
 一郎は校舎の裏へと急いだ。下にいた二人には大きな溝がある。でも、それはまだ深くはない。瞬く間に光を当てれば、すぐさま橋となって分かり合えるに違いない。
 そして優しい風で包んであげれば、きっと元通りになる。そう思っていた。

この文章では、大きな溝、瞬く間の光などで次郎と三郎の状況を描写している。また、『橋になって』や『優しい風』という言葉を使って、一郎の人への愛情を示している。

このように隠喩を用いた表現では、登場人物が感じることをモノや現象で表していると考えられる。

おわりに

今回は感情表現の比喩と題して、直喩および隠喩を例文を用いながら検証していった。筆者は本記事の制作を通して、以下の点が得られたと感じる。


  • 直喩:読者に伝わりやすい「シンプルさ」を重視
  • 隠喩:登場人物の感じ方を描き「深み」を重視

ということである。

では最後にひとこと――
「あなたは、シンプルさと深さのどちらが好きですか?」
直喩と隠喩を交えて描くと、より良いバランスが描けるかもしれない。

以上

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