小説を読んでいて、「情景がはっきり浮かぶ作品」と「文字を追っているだけで終わる作品」があると感じたことがあるかもしれない。その違いは文章力だけでなく、“想像力”にも大きく関係していると考えられる。
さまざまなメディアが乱立する中で、小説が想像力を鍛えるのに非常に適したメディアだと言える。なぜならば、映像のようにすべてが与えられるのではなく、限られた言葉から世界を組み立てる必要があるからに他ならない。
本記事では、「小説がなぜ想像力を鍛えるのか」という基本的な仕組みを整理しながら、読み手・書き手の両方の視点から、想像力を伸ばすための考え方と実践方法を紹介する。
小説が想像力を鍛える理由
想像力は、読者と筆者によって少なからず違いがある。たとえば、以下のような違いが考えられる。
- 読者にとっての想像力:文章に書かれていない情報を補う力
- 筆者にとっての想像力:目に見えないものから情報をつなぎ意味を作る力
つまり小説は、読者と筆者の双方に置いて、想像力が最も活発に働く表現形式の一つだと言えるだろう。
本項では、読者および筆者に共通する小説の特徴を整理する。
小説は情報が意図的に省略されている
小説には、情報が意図的に省略されているケースがある。たとえば、情景描写や心理描写はすべてが説明されるわけではない。そのため、提示された言葉を手がかりに自分なりの風景や感情を補完して、読み進める必要がある。
この「補完する行為」そのものが、小説が想像力を鍛えるに足りうる理由の一つだと言える。
小説では時空間の飛躍が起こり得る
小説では時間や空間の飛躍が起こることも少なくない。そのため、読者は場面転換や心情の変化を、文章の流れから想像する必要が生じる。具体的には、前後の文脈をもとに「今、何が起きているのか」「どう変わっているのか」を頭の中で再構成しながら読み進めることになる。
上記のように、小説では読み進めるにあたって、自ずと想像力が要求されると言っても過言ではない。
登場人物の内面をすべて説明される訳ではない
内面をすべて説明しない作品ほど、読者の想像力は刺激されると考えられる。具体的には、登場人物のセリフや行動、沈黙から感情を推測することで、物語が立体的(もしくは映像的)に立ち上がってくる。それはまさに想像力のたまものである。こうした読書体験を重ねることで、想像力は自然と磨かれていくと言えるだろう。
また、創作の視点から見ても、想像力は欠かせない。たとえば、筆者は小説を書く時に、「読者がどこまで想像するか」を考えながら設計している。
つまり何を書き、何を書かないかを選ぶこと。さらに物語中のどのタイミングで、どの量を描いて読者の想像力を誘導するか。その感覚こそが、読むこと(ならびに書くこと)でこそ養われると推察される。
具体的な想像力の鍛え方(読む/書く実践)
では、具体的にどのように鍛えれば良いのか?
本項では、読むこと・書くことの両面から紐解いていく。
読むことで鍛える:書かれていない情報を探す
想像力を鍛える読書とは、「何が書かれているか」よりも「何が書かれていないか」に意識を向ける読書だとも言える。
たとえば、
- 本文の情景描写によって、どんな空間を思い浮かべたか?
- セリフからどんな感情を感じ取ったか?
- 描かれる行動から、どのような心情を感じ取ったか?
こうした点を意識することで、読書は受動的な行為から能動的な思考へと変わり得る。特に効果的なのは、一度読んだ場面を読み返し、「自分はどんな映像を思い浮かべていたか」を確認することだと考察する。
書くことで鍛える:すべてを書かない練習
想像力は、「書かない判断」を通しても鍛えられる。文章を書くとき、つい情景や感情を説明しすぎてしまいがちだが、そこで 「これは読者に想像させてもいいか?」 と問いかけてみるのも良いかもしれない。
たとえば、
- 心情を直接書かず、行動だけで示す
- 情景を一つの要素だけで表す
- 結論を言い切らず、余白を残す
上記を意識して書き進めると、「どこまで削っても伝わるか」という感覚が磨かれていくと予想される。つまり――
読む→書くを往復することで想像力は定着する。
想像力は、読むだけでも、書くだけでも十分には育たない。そのため、読むことで他者の設計を知り、書くことで自分の設計を試す。この往復によって、想像力が自分の中に定着されるとも言える。
(読むだけでも、書くだけでも十分ではない理由の考察は以下より)
しかしながら、書く行為というのは多くのエネルギーを消費するのも事実。そこで小説を読んだあとに、「この場面で自分なら何を削るか」「逆に何を一行だけ足すか」と考えてみるだけでも、想像力は確実に鍛えられると言えるだろう。
まとめ
今回は小説で鍛えられる想像力というテーマで筆者の考えを述べていった。小説における想像力は、豊かな空想力ではなく、書かれていない部分を補い、物語を自分の中で完成させる力だと言える。
そこで、読むことで補完の感覚を身につけ、書くことでその感覚を設計に落とし込む。
この循環を続けることで、想像力は創作にも読書にも生きる思考力として育っていくと考えられる。
では、最後に一言。
『あなたはどんな小説が好きですか?』
小説は、想像力を鍛えるための最良のトレーニング場。好きな作品を読んで、楽しんで鍛えてみるのはどうだろうか。
以上

