戦闘シーンは、小説における最もダイナミックな見せ場のひとつである。時に動きや感情、さらには駆け引きが交錯し、時に読者に高揚感を与えることが求められるかもしれない。
しかし、アクションを単に列挙しても面白くはならないのもまた事実。文字だけで“視覚的興奮”や“緊迫感”を伝えるには、それ相応の技術と工夫が必要なのである。
本記事では、小説における戦闘描写の基本を確認し、筆者なりの考察を述べてゆく。ぜひとも、臨場感のある動きの表現や登場人物の感情を引き出すヒントとして、ご覧いただきたい。
一般論:どのように戦闘描写を描く?
小説において戦闘描写を描くためには、以下の3つの軸が重要だと考えられる。
- 空間と動作の把握
小説では映像とは異なり、テキストをベースに頭の中で状況を組み立てる必要がある。そのため、地の文での空間の配置、敵味方の位置関係、武器の届く範囲などを明確にしておくとわかりやすくなると言える。 - リズムと緩急
すべての動作を丁寧に書くとテンポが均一となり、キャラクターの動作や感情もまた平坦になる。逆に、要所を絞ったり、一文の長さや漢字・ひらがなを使い分けたりすると、文章にリズムや緩急が生まれ、キャラクターにもテンポが生まれると言える。 - 感情と緊張感の演出
戦闘は肉体だけでなく精神のぶつかり合いでもある。恐怖、怒り、焦り、迷いといった心理を描くことで、行動の背景に深みが生まれる。とりわけ視点人物の感情を通して描くことが、没入感の鍵となるとも言えるだろう。
このように、戦いを描くとは、動作の羅列ではなく、キャラクターの思考や感情を内包する“物語の凝縮”とも言えるかもしれない。
考察①:空間と動作の把握を描くには――
見出しの問いに関して、筆者なりの答えを述べるとすれば――それは、視点の切り替えを上手く用いるということになる。
なぜなら、小説ではテキストのみで構成されるという制約上、どうしても視点(もしくは視点人物)を固定する必要がある。そのため、空間や動作のすべてを描くにはどうしても視点における工夫が必要になるからである。
たとえば、以下の文はどうだろうか?
例文1-1:視点人物が殴られるシーン
相手の拳が顔面に飛んでくる。私は片手をあげて、攻撃を防御する。しかし、その直後、逆の脇腹に衝撃が走ったのであった。
上記の文では、視点人物はあくまでも見えていること、考えていることしかわからない。そのため、脇腹に何が当たったのかが分からないのである。
では、以下の文を追加してみたらどうだろう。
例文1-2:視点人物が殴られる友人を見ているシーン
相手は迷わず友人の顔面を狙っていた。だが、友人もすぐさま防御をする。しかし、横から来た敵(だと思われる人物)が友人の脇腹に石を投げたのだった。
上記の文は、視点人物が例文1-1の人物を後ろから見ている描写である。そこで2つの例文をあわせて読むと、戦闘の全体像が見えてくることがわかる。
つまりは、視点を巧みに切り替えることによって、戦闘描写をより立体的に見せることができると言えるかもしれない。
このように戦闘描写とは、ただ動きを描くだけでなく、その内面や視点をどう設計するかにも関わってくる。それを考えるとき、以下の「視点操作」の記事が役に立つかもしれない。
考察②:リズムと緩急を描くには――
小説におけるリズムと緩急。それは1文の長さに比例すると、筆者は考えている。
百聞は一見に如かず、以下の文を見ていただきたい。
例文2-1:視点人物が殴られるシーン(1文が長い場合)
私は、顔面に飛んでくる相手の拳に自身の片手をあわせて防御した。しかしながら、そのすぐ後に、私が上げた片手とは逆の脇腹に衝撃が走ったのであった。
例文2-2:視点人物が殴られるシーン(1文が短い場合)
拳が飛んでくる。狙いは顔面のようだ。私は片手を上げた。そして相手の拳をはじく。だが、その直後、私は脇腹に強い衝撃を受けた。
上記2つの例文を見比べて、皆さんはどう感じただろうか?
例文2-1よりも例文2-2の方がスピードを感じたのではないだろうか?
このように、文章におけるリズムや緩急は読者の読むスピードに起因すると言えるかもしれない。そのため、上記の例以外にも、漢字とひらがなを使って硬さを表現したり、比喩を使って余白――いわゆる間を作ったりすることで、よりリズムや緩急を付けくわえられると考えられる。
考察③:感情と緊張感を演出するには――
見出しの問い。これに対する筆者の答えは、心理表現に考察②におけるリズムと緩急を落とし込むことだと考えている。
では、上記にならって例文を見てみよう。
例文3-1:視点人物が殴られるシーン
(1文を長く、比喩、ひらがなを用いた場合)
相手のこぶしが顔面に飛んでくる。それはまるで竹のように柔らかく、私のあごを狙っているようだ。私は片手をあげた。しかし、その後すぐに、逆の脇腹に衝撃が走ったのであった。
例文3-2:視点人物が殴られるシーン
(1文を短く、比喩なし、漢字を用いた場合)
相手の拳が顔面に飛んでくる。軌道は顎。速い。私は片手をあげた。しかし、その直後、逆の脇腹に衝撃が走った。
上記の例文はどうだろうか?
例文3-1の視点人物には心の余裕が垣間見える。一方、例文3-2の視点人物からは焦りが見えるのではないだろうか?
つまりは、感情と緊迫感は視点人物の感じ方を文の長さ・漢字とひらがなの使い分け・比喩表現などでリズムと緩急をつけることで演出できると言えるだろう。
このように戦闘シーンの裏には、必ず感情がある。その感情をどう届けるか。その鍵を握るのが心理描写なのかもしれない。
以下の記事でも、心理描写の重要性を掘り下げている。あわせてご覧いただきたい。
おわりに
今回は、小説における戦闘描写と題して、筆者の考察を述べていった。
戦闘描写は、視点誘導や心理描写などの技術を複合的に使って描く必要があると考えられる。そのため、筆者としても、まだまだ表現に磨きをかけていきたい所存である。
では、最後に一言。
「皆さんはどんな戦闘シーンを描きたいですか?」
描きたいシーンによって技法も変わる。そこで皆さんも作風に合った表現を磨いていただければ幸いである。
以上