小説における情景描写とは?風景・余韻・感情を描き出す技法

創作構造ラボ

情景描写──
それは、小説において読者の“体感”をつくる重要な要素である。

空の色、風の匂い、音の静けさ。こうした外界の描写は、単なる背景ではなく、登場人物の心情や物語のトーンと深く結びついている。

本記事では、小説における情景描写の役割と基本技法、そして感情や空気感をどう描き出すかについて、具体例とともに考察していく。

一般論:情景描写のステップを確認しよう

情景描写とは、風景や空間、季節や天候などを通じて、読者に物語世界を“感じさせる”ための描写技法である。
一般的には「視覚的描写」が中心だが、時に情景描写は五感すべてを使って空気感を立ち上げることもある。

そのため、情景描写を効果的に用いるためには、以下のようなステップを意識するとよいと言われている。

  1. 五感を意識する
    情景は視覚だけでなく、音・匂い・温度・肌触りなどを組み合わせることで立体的になる。
  2. 感情と連動させる
    風景を描写するだけでなく、それが登場人物の心情とどう重なるかを意識する。
    (例:「空が広く感じた」→安心、「風が冷たく感じた」→孤独や不安)
  3. 動きを加える
    静止画のような描写ではなく、「雲が流れていく」「雨音が強くなる」など、時間の変化を含めると臨場感が生まれる。
  4. 必要な情報に絞る
    すべてを詳細に描くのではなく、場面に必要な要素だけを選んで描写し、読者の想像力に余白を残す。
  5.  構造に組み込む
    情景を単なる飾りで終わらせず、心情の導入、転換、余韻など物語の構造の一部として設計することが重要である。

上記に基づくと、「冷たい風が頬を刺す」ことで冬の寒さを、「蝉の声が止んだ」ことで不穏な空気を表現するなど、間接的に心情や物語の転換を演出することもできる。
情景描写がうまく機能すると、読者はその世界に“没入”できるだけでなく、感情の流れを自然に受け取れるようになる。
一方で、描写が長すぎたり不必要な情報を盛りすぎたりすると、読者の集中が途切れる原因にもなるため、描写と展開のバランスも重要とも言えるかもしれない。

情景描写を例文で見てみる①:五感と感情を連動させると――

五感(視覚・触覚・味覚・聴覚・嗅覚)の内、最も捉えやすいのは視覚である。そこで、本項では視覚を中心に例文を見ていきたい。


【視覚+感情】
 見上げると、雲一つない空が広がっている。まるで、太陽が私の心に光を差し伸べるように明るく大地を照らしているのだ。目を凝らすと、遠くに薄い雲が見える。
 それもまた、美しく思えるのは、心が晴れたせいなのだろうか?


上の例文では、心の様子を空の様子になぞらえて、示している。この情景からわかることは、主人公が迷いや悩みから解き放たれた様子が伺える事かもしれない。

次に、触覚や味覚に関する例文を見てみよう。


【触覚・味覚+感情】
 その手触りは決して心地よいものではなかった。舌触りも良いとは言えない。しかし、その食べ物を噛み締めるとどうだろう。出汁の効いた深い味わいが口の中に広がってゆく。それは、まるで正面にいる君のように豊かで味わい深い代物なのである。
 そして、私は改めて思うのだ。人も物も見た目で判断してはいけないと……。


上記は、『見た目で判断してはいけない』という事柄を、手触りや舌触りといった触覚、および出汁の効いた味という味覚で表している。

このように、情景描写はただ風景を描くのではなく、五感を通したキャラクターの心情も加えると、より味わいのある文章になると言えるかもしれない。

情景描写を例文で見てみる②:動きを加えると――

では、情景描写に動きを加えてみると、どうなるだろうか?
以下の例文では、前項の空の描写に動きを加えてみたいと思う。


【視覚+感情(動きアリ)】
 目を凝らすと、遠くに薄い雲がこちらに流れてくる。その速度はまちまちだが、確実にこちらへと向かってくるのだ。
 しかし、今の私には、それすら美しく見える。それは、きっと晴れやかな心に強さが加わったからだろう。


上記では雲を不安となぞらえて描写している。しかし、主人公はそれを見てもなお、美しく思えるという心情描写を加えることで、より成熟した強さが垣間見えるのではないだろうか。

このように、情景描写に動きを加えると、より強い感情をイメージさせることができると考えられる。

考察①:情報が多すぎるとどうなるのか?

情景描写には注意点がある。それは情景を盛り込みすぎると、読者に伝わりにくくなるという点である。以下の描写を見ていただきたい。


【視覚・触覚・味覚+感情(動きアリ)】
 目を凝らすと、遠くに薄い雲がこちらに流れてくる。その速度はまちまちだが、確実にこちらへと向かってくるのだ。
 そんな中、私は食事をしている。それは、手触りも舌触りも良いとは言えない。しかし、その食べ物を噛み締めるとどうだろう。出汁の効いた深い味わいが口の中に広がってゆく。それは、まるで正面にいる君のように豊かで味わい深い代物なのである。
 そして、私は改めて思うのだ。人も物も見た目で判断してはいけないと。また、それは晴れやかな心に強さが加わったからだろうと。


上の例はきっと、主人公はピクニックをしているに違いない。きっと天気は晴れているに違いない。そして、主人公は見た目で判断しない心の強さを手に入れたに違いない。
しかしながら、長い上に何を伝えたいのかが分かりにくい点は否めない。

上記は極端ではあるが、いろいろな情景を盛り込んで文章を描くと、伝えたいことがぼやけるとは分かったのではないだろうか?

そこで、筆者としてはキャラクターが感じている情景は1つ(もしくは2つ)に絞り心情表現に落とし込むのが最適なのではないかと考えている。

考察②:構造に組み込むとは?

筆者は物語を書く上で、情景描写をできるだけ少なくしながら書き進めることが多い。というのも、考察①のように情景描写が多いと、文章の流れやテンポが損なわれる可能性も否めないためである。

しかしながら、全く書かないという訳にもいかないのである。そこで、筆者は以下のようなことを心掛けて執筆している。


  • シーン背景をイメージさせたい時
    筆者は各話(もしくはシーン)の冒頭に風景描写を描くことが多い。理由は読者に最初にシーン背景をイメージしてもらい、想像を膨らませながら読み進めてもらいたいからである。
  • シーンに余韻を残したい時
    物語を進める中で、意図的に結論をぼかしたい時がある。例えば、決着が付いたか否かを次話に持ち込みたい時などである。
    その時はシーンのラストに情景描写を用いて、隠喩的に明示する方法もしばしば用いることも少なくはない。
  • 心情描写を隠喩的に伝えたい時
    キャラクターにはさまざまな個性がある。それこそ、直情的なキャラクター以外にも、じわじわと湧き上がるような個性のキャラクターもいるだろう。
    特に、後者では情景描写を隠喩的に用いるのが有効だと考えている。
    詳しくは、以下の心理描写に関する記事をご覧いただきたい。

このように、情景描写は単なる風景ではなく、描写することでさまざまな意味を持たせることが可能だとわかるのではないだろうか。

おわりに

今回は情景描写について筆者なりの考察をまとめてみた。そこで、情景描写には以下の役割があると考えられる。


  • シーンをイメージさせる役割
    (使用例:シーンの冒頭)
  • シーンに余韻を残す役割
    (使用例:シーンのラスト)
  • キャラクターの心情を隠喩的に示す役割
    (使用例:じわじわ込み上がる感情など)

このように、情景描写はただ風景を描くだけではなく、話の中における意味を持って描くことが重要だと言えるかもしれない。

以上

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