倒置法と体言止めは、文章の印象を大きく変える技法である。
ただし、言葉だけの説明だけでは「実際にどう変わるのか?」が見えづらいこともある。
そこで本記事では、同じ文章を通常文・倒置法・体言止めの3パターンで書き換え、“何が変わり、どう読まれるのか” を体感できるようにまとめた。
- 情景の入り方
- 読み終わりの余白
- キャラの視線の方向
- 読者の想像がどこで働くか
これらが、わずかな語順や文末だけでどれほど変化するのか。検証しながら、技法の実際の使いどころも見ていく。
※ 倒置法と体言止めの理論的な違いは、以下の解説記事にまとめています。
倒置法と体言止めの違いを例文で検証しよう
本項では、倒置法および体言止めのそれぞれにおいて登場人物軸、読者軸を念頭に置き、以下の例文⓪を変化させていく。
例文⓪:基本の文章
私も鳥のように空を飛びたかった。しかし私には翼がない。だから、かつてイカロスが挑んだそれの反省を踏まえて、羽を作ろうと決意した。
検証①:倒置法(登場人物軸 ⇒ 読者軸)
筆者は、倒置法について登場人物から読者へと導線を引く技法だと考えている。以下では、例文⓪における序盤・中盤・終盤の文に倒置法を用いて検証する。
例文①₋1:倒置法(序盤部)
空を飛びたかった、鳥のように。しかし私には翼がない。だから、かつてイカロスが挑んだそれの反省を踏まえて、羽を作ろうと決意した。
例文①₋1は、例文⓪の『私も鳥のように空を飛びたかった。』の語順を入れ替えた。すると、登場人物が『空を飛びたかった』と熱望していることがわかる。と、同時に我々(読者)にも主人公の気持ちが強く伝わると期待できる。
例文①₋2:倒置法(中盤部)
翼がない、私には。だから、かつてイカロスが挑んだそれの反省を踏まえて、羽を作ろうと決意した。私も鳥のように空を飛びたかったから。
例文①₋2は、例文⓪における『私には翼がない。』の順序を入れ替え、『私も鳥のように空を飛びたかった。』を後半に移動した。これも例文①₋1とどうように、登場人物の心情が強く伝わると言えるだろう。
例文①₋3:倒置法(終盤部)
私も鳥のように空を飛びたかった。しかし私には翼がない。だから羽を作ろうと決意した、かつてイカロスが挑んだそれの反省を踏まえて。
例文①₋3は、例文⓪における『かつて―中略―を踏まえて、羽を作ろうと決意した。』の順序を入れ替えた。これもまた、登場人物がどのように挑もうと考えているかが強く伝わる。
つまり倒置法は、登場人物に主眼を置き、我々(読者)への導線としていることがわかるのではないだろうか。
検証②:体言止め(登場人物軸 ⇔ 読者軸)
筆者は、体言止めについて登場人物軸および読者軸の双方向に作用する技法だと考えている。以下は、②₋1登場人物⇒読者、および②₋2読者⇒登場人物の例文を検証していく。
体言止め(登場人物軸 ⇒ 読者軸)
体言止めの登場人物軸。つまり登場人物の知覚を押し出して、読者を導く手法である。
例文②₋1:体言止め(登場人物軸 ⇒ 読者軸)
私にないのは翼。だから、かつてイカロスが挑んだそれの反省を踏まえて、羽を作ろうと決意した。私も鳥のように空を飛びたかったから。
例文②₋1は、例文⓪における『私には翼がない。』に体言止めを使用して、さらに『私も鳥のように空を飛びたかった。』を後半に移動させた。
すると、登場人物の心境が強調され、あとから我々(読者)が理由を知る流れになる。これは登場人物の先行型の書き方だと考えられる。
体言止め(読者軸 ⇒ 登場人物軸)
体言止めの読者軸。これは、文章上であえて解釈を描かずに、解釈を読者の想像に委ねる描き方である。
例文②₋2:体言止め(読者軸 ⇒ 登場人物軸)
空。それは、私が飛びたかった場所。しかし私には鳥のような翼がない。だから、かつてイカロスが挑んだそれの反省を踏まえて、羽を作ろうと決意した。
例文②₋2は、例文⓪の『私も鳥のように空を飛びたかった。』に体言止めを使用した。すると、我々(読者)はまず『空』が目に入り、その後に登場人物の心境が飛び込んでくる。
これは読者の先行型の書き方だと言えるだろう。
このように、体言止めは倒置法と違って、登場人物・読者の両方から起点を作れる技法だと考えられる。
まとめ
今回は倒置法と体言止めに関して、例文を用いて検証を進めた。
結果、以下の考察へとつながった。
- 倒置法:登場人物軸から読者軸へとつなげる技法
- 体言止め:登場人物軸および読者軸の双方向に作用する技法
さらには、文章のスピード感などの違いも例文から感じられたのではないだろうか。
皆さんもさまざまな読書体験の中で、上記を少しだけ意識してみると面白い発見があるかもしれない。読書の楽しみ方は人それぞれ。その幅を少しでも広げることができたなら、筆者は嬉しく思う。
以上
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