小説や物語を読み終えたあと、「切ない」「ざわつく」「胸が締め付けられる」といった言葉が自然と浮かぶことがある。
これらは感情語と呼ばれるもので、物語体験の醍醐味のひとつとも言えるかもしれない。
本記事では、感情語と創作技術がどのように結びつき、物語の印象を形作っているかを整理していく。
感情語とは何か?|意味ではなく「体験の痕跡」
感情語とは、喜怒哀楽のように明確に定義された感情名だけではない。『気になる』『引っかかる』『頭に残る』など言葉にならない曖昧な言葉も含まれている。
つまり、感情語は物語を体験した「あと」に生まれる言葉であり、物語が読者に伝えたい何かを体験として残す“痕跡”とも言えるだろう。
創作技術とは何か?|感情を直接「作る」ものではない
創作技術というと、次のような要素を思い浮かべる人が多いかもしれない。
- プロット構成
- キャラクター設計
- 視点・語り手
しかし創作技術だけでは、感情そのものを操作することは難しい。なぜなら創作技術が扱っているのは、『読者が情報を知る順番』や『時期列』といった、体験の構造そのものだからである。
そのため創作には、技術だけでなく、感情語が立ち上がる余地も含まれていると言っても良いかもしれない。
感情語と創作技術の関係|因果は逆向き
感情語と創作技術の関係性は――
『ある感情を与えたいから、この技術を使う』ではなく、
『その物語を通過した結果、感情が浮かんでくる』
というものだと推察される。
そのため感情語は目的ではなく、『創作技術が体験につながったかを示す事柄』だと言い換えることも出来るだろう。
感情語は、創作技術を読み解くための手がかりである
『感情語は創作技術の精度を測る指標となる』
と言われるケースも少なくない。
しかし、本当にそれだけなのだろうか?
以下では、感情語がどのように創作に作用するのかを紐解いていく。
体験を鈍らせる感情語
感情語を多く知ると、物語が豊かになるというのは事実としてある。しかしながら、過度な感情語は、物語体験の邪魔になることもある。
以下の例文を見ていただきたい。
例文①:感情語を意識した場合
「川の音は静かでいい」
拙作『隣の宇宙にご用心(抜粋)』より
そう呟きながら、北九海斗は酎ハイを飲む。仕事帰りにおにぎりと惣菜を買って、川辺で飲むと表情が明るくなる。
例文①は、『表情が明るくなる』という感情語を用いることで、景色を見ながら食事をすることを楽しみにしている様子がわかるかもしれない。
しかしながら、この物語において伝えたいことは本当にそうなのか?
それは次項で紹介する。
創作から浮かび上がる感情語
例文②:端的な感情語を使った場合
「川の音は静かでいい」
拙作『隣の宇宙にご用心』より
そう呟きながら、北九海斗は酎ハイを飲む。仕事帰りにおにぎりと惣菜を買って、川辺で飲むのが楽しみだった。
例文②は、拙作『隣の宇宙にご用心』の原文そのままを載せている。例文①との違いは、
『飲むと表情が明るくなる』が『飲むのが楽しみだった』となっているところである。
これは例文全体を俯瞰して見てみると、主人公・北九海斗は『景色を見ながらの食事』を楽しみにしているのではなく、『静かな川辺にいること』だけが楽しみだったと見えなくもない。
つまり、上記は『楽しみ』という端的な感情語で余白を生み出し、反対語に近い『孤独感』を表しているに他ならない。
このように、必ずしも比喩などの過度な感情語を用いれば良いというわけではないとわかるのではないだろうか。
まとめ|物語は技術の前に「感情として残る」
今回は感情語と創作技術の関係を例文を用いながら紐解いた。感情語と創作技術は、対立するものではない。
- 感情語=体験の結果
- 創作技術=体験を支える構造
と、位置づけられると言える。つまり、技術は感情を説明するためにあるのではなく、感情が自然に生まれる道を整えるためにある。
物語を読み終えたあと、
言葉にならない何かが残るのなら──
その感触こそが、物語とあなたが確かに出会った証なのかもしれない。
以上
