読者が「読みにくい」と感じる文章には、共通して“リズムの乱れ”がある。
たとえば、文の長さが不安定だったり、語尾が繰り返されたり、読点が少なすぎたり──それはまるで、演奏で拍子がずれるような違和感。
小説におけるリズムとは、“読む呼吸”そのもの。本記事では、小説の読みやすさや没入感を高めるためのリズム調整について解説していく。
「なんとなく文章がもっさりする」「テンポが悪い気がする」そんな悩みを持つ方へ、
一緒にリズムの視点から文章を見直してみませんか?
リズムは「読む呼吸」
小説におけるリズムとは、読者が読むときに感じる“テンポ”や“間(ま)”のことである。
たとえば、文の長さ、語順、句読点の配置、語尾の選び方が主な要素とも言えるだろう。
読者は無意識に、文から“呼吸の流れ”を感じ取っており、その流れが滑らかであればあるほど、読みやすく、没入しやすくなる。
文章のリズムを整える要素
小説におけるリズムは、主に作中のスピード感と直結する。本項では、リズムを整える4要素を紹介する。
①読点の配置
読点 | メリット | デメリット |
---|---|---|
多い | 丁寧で静かな印象を与える | テンポが遅く感じられる |
少ない | 文が滑らかに流れる | 読者の理解負荷が上がる |
上記のように、読点は多くても、少なくてもバランスが崩れることもある。そのため、作者も読む呼吸を意識して整えていく事がカギとなる。
②語尾のバリエーション
「〜た」「〜する」など同語尾が続くと単調になりやすくなる。そこで滑らかさを意識しながら、自分なりのルール(同じ語尾は2回までなど)を作ってみるとよいかもしれない。
③接続詞の使い方
「そして」「しかし」などを多用すると文章が重くなることがある。そこで順接の省略を意識しながら、必要最小限に留めるとリズムを担保しやすくなる。
④改行のタイミング
長い段落はリズムを止める。一度、画面(原稿)を俯瞰して見て、視覚的なテンポを意識した区切り方を心掛けるとよいだろう。
このように、小説のリズムは視覚と聴覚で整える感覚が大事だと言える。
※なお、「文の長さ」そのものは、場面の緊迫感やテンポに直結する要素。とくに緊迫した戦闘や動作描写では、一文の長短がテンションの上がり下がりを決定づける。
詳しくは以下の記事をご覧いただきたい。
目で確認して、耳で整える
小説のリズムの確認では、目視と聞き取りが有効である。
パソコン越し(できれば紙ベース)で目視確認すると、段落・読点などを文章の列ではなく、面としての体裁を確認できる。
また音声によるチェックでは、脱字の発見や黙読では見逃してしまう違和感や停滞感を見つけやすい。
そのため、目では――内容・演出・見えやすさ、耳では――響き・リズムの崩れ・読みやすさを感じて直すことが、文章の演奏者としての仕上げだとも言える。
例文のリズムを整えてみよう
本項では、『文章のリズムを整える4要素』について例文を用いて検証していく。
例文①
雪の降る街にいる。そして、ぼくは、川沿いを歩いている。とはいえ、この街では、めったに雪が、降らないのである。ましてや積もることなど、ほとんどないのである。
例文①はかなり冗長で、読みにくく感じるのではないだろうか。そこで、『文章のリズムを整える4要素』を1つずつ実装していこう。
例文②:読点の配置 雪の降る街にいる。そして、ぼくは川沿いを歩いている。とはいえ、この街ではめったに雪が降らないのである。ましてや積もることなど、ほとんどないのである。
例文②では、例文①に6つあった読点(、)を3つまで減らしてみた。すると読む際に頻繁に息継ぎをしていたリズムがスムーズに流れているのがわかる。
続いて、『語尾のバリエーション』を増やしてみよう。
例文③:語尾のバリエーション
雪の降る街。そして、ぼくは川沿いを歩いている。とはいえ、この街ではめったに雪が降らない。ましてや積もることなど、ほとんどなかった。
例文③では、例文②の語尾を以下のように変更した。
- 雪の降る街にいる→雪の降る街
- 雪が降らないのである→雪が降らない
- ほとんどないのである→ほとんどなかった
すると、例文②において「~る」と続いていた語尾にバリエーションが増え、読み心地が良くなっていると期待できる。
次に『接続詞』にも注意を払ってみよう。
例文④:接続詞の使い方 雪の降る街。ぼくは川沿いを歩いている。とはいえ、この街ではめったに雪が降らない。ましてや積もることなど、ほとんどなかった。
例文④では、例文③の2文目に登場していた『そして』を削除してみた。すると、さらに冗長さが無くなっていると考えられる。
(注:『逆接』を削除すると文脈が変化するケースも少なくない。そこで接続詞の省略を考える時は、『順接』の省略を中心に考えるのが基本である)
では、最後に『改行のタイミング』を整えてみよう。
例文⑤:改行のタイミング 雪の降る街。ぼくは川沿いを歩いている。 とはいえ、この街ではめったに雪が降らない。 ましてや積もることなど、ほとんどなかった。
例文⑤では、例文④と比べて見え方が変わったと感じるかもしれない。改行は作者や読者によって好みが出やすく、媒体の違いや、縦書き・横書きによっても変わるものである。
しかしながら、一般に改行が少なければ重い文章に、多ければ軽い文章に見える。そのため、掲載する媒体や文脈によって変化をつけることが最適だと言えるだろう。
おわりに
今回は小説におけるリズムと題して、一般論と例文を用いた検証を行った。
小説のリズムは読みやすさの向上や、内容のスピード調整に使えるテクニックである。そのため視覚と聴覚で整える感覚が大事だと言えるだろう。
あなたも文章のリズムを意識してみてはいかがだろうか?
すると、あなたらしい呼吸、あなたらしい文体に昇華できると期待できるから。
以上