伏線。それは物語における“設計された余白”であり、読者との知的な対話でもある。とくに小説においては、映像作品とは違って、すべての情報を「言葉」でコントロールできるという特性がある。
だからこそ、小説における伏線は、“キャラクターが何に違和感を覚え、それをどのように言葉に残すのか(もしくは言葉にしないのか)”という構造設計でもある。
本記事では、小説という形式における伏線の主な種類を紹介し、どのように考え、何を目的に描くのか──を掘り下げてみたい。
一般論:小説の伏線にはどのような種類がある?
小説における伏線とは、「あとから意味が立ち上がる言葉や出来事」をあらかじめ配置する行為である。しかし、それは“後で驚かせるためのネタ”ではなく、読者に違和感や引っかかりを与えながらも、読み進める妨げにはならない“余白”として仕込まれるのが理想的だと考えられる。
小説における伏線は、以下のようなタイプが特に多く見られる。
- 視点型:ある視点で語られていた情報が、後に別の視点や事実で覆される構造
- 時間操作型:時系列をあえてズラすことで、情報の意味が後から変わる演出
- 地の文型:地の文の比喩や表現が、後に心理や真相の暗示と分かる表現
上記のように、小説においての伏線は、「どの状況で、どの言葉を使って、どう気づく人だけに気づかせるのか」ということに集約される。言い換えれば、伏線の価値は“読み返されたときに意味が深まるかどうか”とも言えるかもしれない。
このように、伏線とは物語の“再読”を意識した設計であり、特に小説においては、「何をはっきり書いて、何をぼかして書いて、何を書かないのか」といった“余白の塩梅“だと言えるのではないだろうか。
考察①:伏線は張るもの?浮かび上がるもの?
上記の問いに関して、筆者は両方あると答えるだろう。
伏線を張るものとした場合
これは物語を作る前段階で張るものだと思われる。たとえば、ミステリーものなどの場合では、あらかじめ意味深な行動をとる人物がいたり、一つふたつと不自然な行動をとる人物がいたりするかもしれない。
これは、物語を書き始める前に犯人や動機を考えておいて、ミスリードとなる人物などを配置する必要があると考えられる。
また、作中の状況やキャラクターの行動、ふいに出した小物などを後から使って、伏線のように見立てることもできるかもしれない。この場合、作中に矛盾がないように細かく見直す必要があるかもしれないが……。
伏線を浮かび上がらせる場合
これは、物語の面白みを出すために作りだしたあらゆる事件。これの理由を考えることによって、物語を形作るケースだと言える。
たとえば、『ある人物が待ち合わせに来なかった』としよう。すると主人公は相手に対して、やきもきしたり、仕方ないと思ったりとさまざまな感情を描けるかもしれない。
しかし、ある人物はなぜ来なかったのか?という疑問は残るだろう。
そこで来なかった理由を深堀して、ある人物は急遽、別の人物とあうことになったとしよう。では、なぜ言わなかったのか?もしくは言えなかったのか?ならば、誰と会っていたのか?など、いろいろな考察ができると思われる。
そして、上記の考察から物語を紐解いていくと、『ある人物が待ち合わせに来なかった』ことこそが伏線として浮かび上がると言えるのではないだろうか。
このように、筆者にとっての伏線は、あらかじめ伏線と意識して張っていたものと、人物の行動や感情、もしくは物語の状況から伏線が浮かび上がるケースがあると考えている。
考察②:伏線は感情のため?知性のため?
筆者は上記に関しても両方あると考えている。しかしながら、知性のための設計も最終的には感情のための伏線となるのではないかと深堀する。
たとえば、前項の『ある人物が待ち合わせに来なかった』ケースを考えてみよう。この場合、主人公は、その相手に関して怒り、不安、諦め、さらには安堵の感情をあらわにするかもしれない。
では、なぜ主人公はそのような感情になったのか?
それは、思い入れの強い相手だったからかもしれない。
大切な相手だったからかもしれない。
どうでもいい人物になったからかもしれない。
はたまた本当は会いたくなかったからかもしれない。
このように主人公の感情は、『ある人物が待ち合わせに来なかった』という出来事に対して揺れ動くのである。
一方、ある人物にとっても同じで、
避けられない出来事だったのか?
どうでもいい相手だったのか?
それとも本当は会いたくなかったのか?
など様々である。
そして、上記の登場人物が『ある人物が待ち合わせに来なかった』という出来事に対して、どう思ったのか?理由を知ること(もしくは話すこと)があるのか?などを決めてゆくと、様々な伏線が生まれると言えるだろう。
このように、筆者にとっての伏線は出来事や感情を深堀して、知性と感情の揺れ動きを描いていくということだと考えている。
おわりに
今回は、小説の伏線に関して一般論と筆者なりの考察を述べていった。
筆者にとっての伏線は、
あらかじめ張るものであり、
物語を深堀して浮かび上がらせるものでもある。
それは、読者の知性を刺激し、
感情をも揺さぶる舞台装置である。
と言えるかもしれない。
では、最後に一言
『あなたはどんな伏線が好きですか?』
その答えにあなたの物語の書き方が隠されているかもしれない。
以上