小説におけるセリフとは?会話で誰の言葉を届けるべきなのか

創作構造ラボ

セリフは、小説における“動き”そのものである。

登場人物たちの言葉を通じて、感情が交差し、関係性がにじみ、物語が進んでいく。だが同時に、セリフはもっとも“バレやすい”技法でもある。たとえば、ぎこちないセリフ、説明くさい会話、キャラが立たない発言……。違和感のあるセリフは、読者の没入を一瞬で壊してしまう。

本記事では、小説におけるセリフの基本とその役割、そして自然に響かせるための視点を考察していく。
会話とは、ただ喋らせることではない。言葉に“関係”をのせ、沈黙を含めて“情報”を込める設計なのだと。

一般論:セリフの分類をまとめてみる

小説におけるセリフは、単なる情報伝達ではない。
セリフの役割は主に以下の3つに分類できる。


  • 感情の表現:登場人物の内面を、行動より直接的に伝える
  • 関係の演出:呼び方・語尾・テンポなどで人間関係を浮かび上がらせる
  • リズムの調整:地の文とのコントラストでテンポを変える

読者は、登場人物の“発言そのもの”だけでなく、言葉選びや間の取り方、反応のズレといったディテールから、心情や関係性を読み取る。そのため、自然に聞こえるセリフには、必ず“文体ではなく人物”に紐づいた声が宿っている。

また、良いセリフは“言わないこと”まで伝えている。
説明を削る代わりに、言葉の含みや沈黙、表情の変化など、場面の流れが意味を補完する。そして地の文とセリフが互いに補い合うことで、読者に「気づき」を生む仕組みが成立すると考えられる。

つまり、セリフはリアルである必要はないが、“その人物らしい”言葉である必要はある。その一言が“誰のものか”を、読者が即座に感じ取れるなら、それはきっと良いセリフだと言えるかもしれない。

考察①:セリフに“関係性”を加えると――

作中の登場人物には、それぞれ立場があり、それぞれ好き嫌いがある。そのため、それぞれの関係性を踏まえて、セリフを描くと説明や違和感を表現できると考えられる。


例文①:会話から設定を説明する
 私は彼に呼び出され、少し憂鬱な足取りであった。
「待った?」私は薄く微笑む。
「いや……。いま来たとこだよ」彼が淡々と言う。
「このカフェ……懐かしいね。私たちが初めてデートに来た場所」
「……そうだな」


上記の会話からは、私と彼が恋人同士で、初めてのデートで来たカフェで会っている様子が伝わるのではないだろうか?
このように地の文で説明し過ぎず、会話の中で断片的に触れることで読者にも自然と伝わるのではないかと考えられる。

考察②:セリフに“違和感”を加えると――

では、違和感を伝える場合はどうだろう。以下の例文を見ていただきたい。


例文②:会話から違和感を伝える
 彼は素っ気なく言葉にして、窓の外を見ている。
「今日は……どうしたの?」
 私の声は震えていた。すると、彼が私に視線を向けてくる。
「もう……分かってるんだろ?」彼が低い声で言う。
「何が?」
「俺がここに呼び出した理由を」
「……」
 私は彼に何も言い返せなかった。


上記では、私と彼は決して良い関係ではないと見えるかもしれない。その正体は、地の文の「素っ気ない」「声は震えて」「低い声」によって、二人の感情がよどんでいる様子を表していること。そして、会話文にある「……」による余白からだと考えられる。

このように、会話文に地の文を混ぜ合わせ、文章のリズムをコントロールすることで、説明や違和感などを表現できると考えられる。

考察③:セリフに“空白”を入れると――

セリフに空白を入れるとは、どういうことなのか?以下の例文を見ていただきたい。


例文③:会話に空白を加える
「別れよう」
 彼が言いにくそうに口にする。それは、まるで鉛のように無機質で、少し重みのある言葉。私は彼への返答に困った。そして私は――、
「うん」
 とだけ答えておいた。


上記では、彼および私のセリフは「別れよう」「うん」だけである。そして、彼がなぜ“別れる”決意をしたのか、また私が“別れ”に対してどのような感情を持ったのかは書かれていない。

一方で、彼がなぜ言いにくそうだったのか?や、私がなぜ返答に困り、なぜ「うん」と“だけ”答えておいたのか?など、想像の余地を残すセリフ運びになっていると気が付くかもしれない。

つまり、登場人物が“言葉にしない”ことによって、読者はその背後にある感情や関係性を想像する。そして、言わなかった一言の“空白”が、読後に静かに残る余韻となって、物語を反芻させると考えられる。

このように、セリフに空白を入れるとは、
読者の想像に登場人物の感情をゆだねることだと言えるだろう。

考察④:セリフは“作者の声”ではなく“登場人物の声”である

物語の冒頭では読者に設定を伝えるべく、説明臭いセリフを入れてしまう事もある。しかしながら、上記は読者の没入感の妨げとなり、作品から離れてしまうキッカケになるとも考えられる。

以下は、例文①に“作者の声”を含めた文章である。


例文④:作者の声が滲み出ると……
 私は彼に呼び出され、少し憂鬱な足取りであった。
「待った?」私は薄く微笑む。
「いや……。いま来たとこだよ」彼が淡々と言う。
「この海沿いのカフェ……懐かしいね。二年前、私たちが初めてデートに来た場所」
「……そうだな」


皆さんは、上記を読んでどのように感じただろうか?「海沿いの」「二年前」というセリフが蛇足には見えないだろうか?

これは、作中の“私”と“彼”にとっての思い出の場所であるにもかかわらず、わざわざ詳しい場所の様子や時間経過を言葉にすることに違和感があると言えるかもしれない。
つまり、「海沿いの」「二年前」のセリフは“私”が“彼”に伝えたいのではなく、“作者”が“読者”に伝えたい情報なのである。

つまり同じ場面のセリフでも、例文①のように“登場人物の声”になったセリフと、例文④のように“作者の言葉”が滲むセリフとでは、読者の没入感に差が出ると予想される。

このように、セリフはあくまでも登場人物のモノであり、作者のモノではない。という意識を持って物語を描いていくことが大切だと考えられる。

おわりに

今回は、小説におけるセリフについて一般論と、筆者の考察を述べていった。

小説におけるセリフは、


感情の表現、関係の演出、リズムの調整によって、
読者に登場人物の気持ちを届ける装置である。


と言えるかもしれない。
しかしながら、筆者も“作者の声”を描いてしまっているケースがあるかもしれない。その時は、本記事を自戒として胸に収め、基本に立ち返りたいと思う。

そこで、僭越ながら皆さんにも今一度、届けたい。
『セリフは作者の声ではなく登場人物の声である』

上記を胸に秘めて、物語を描くと、きっと良いセリフが生まれる。
かもしれない。

以上

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